バトルバディ・ア・ラ・カルト
 


     
3.5



ずぼらをした誰かさんへのちょっとした懲罰…というのは冗談だが、
血なまぐさい外套やら頭やらというままで首領に会うわけにもいくまいと、
外套を館内のスピードクリーニングに預け、当人は問答無用で風呂へ追いやったため、
しばし待つ時間が出来た残りの顔ぶれ。
中原の幹部権限で他者の出入り禁止とした、涼しい風の通る開放型のサンルームにて、
コーヒー片手にあらためて向かい合ったものの、

「何でこんな火傷や傷が増えてるかな、こいつ。」

明るいところでよくよく見やれば、
腕やら手の甲には絆創膏が貼られており、
濃色のパンツなので目立たぬがようよう見ればの脛や腿、
口許近くや柔らかな頬にまで、
細かい怪我をあちこちへ負っている敦だと気づいた中也。
少し焦げてる個所もある髪の先を、
手套をわざわざ外して可哀想にと柔らかく梳きながら、
監督責任者だろうがと太宰へきつい目線を投げ、
噛みつくような口調で “説明しろや、こら”と凄めば、

「あ、いやその、
 さっきちょっと お元気な容疑者確保にあたってたもので。」

あくまでも職務上の負傷であって、
誰の悪意も作為も関わらないものなんですよぉと言いたいか。
わたわたと焦りつつ、案じられた本人がそんな言い分けを紡いだものの。
事件の詳細までは言えないとはいえ、
何だその言い回しは、敦くん…と、
太宰が微妙な苦笑を向けたのは言うまでもなく。
相手をしたのが派手な爆裂系の異能だったので、
追いかける過程で少なくはない火の粉をかぶってしまったがためのこの様相。
手早く収められた上々な結果だったの、誇らしげな笑顔で締めたお務めだけに、
太宰としては もはやどうのこうのと言及する気もないようだが、

「だったらだったで、
 確か虎の異能を発揮していれば
 怪我なんざ片っ端からぐんぐん治るって言ってなかったか?」

凄まじい破壊力を誇る芥川の“羅生門”と真っ向から対峙をし、
黒獣の切っ先で何度も何度も容赦なく刺し貫かれても、
戦闘への覇気さえ満々ならば、
見る見ると傷も塞がってのその結果 逆転KOを決めたという話は、
そっちの本人から少しずつ聞いていた中也だったようで。
だというのに、この悲惨な傷だらけは何としたことと、
いくらでも甘やかすぞ、何だったら目の中へ入るか?と言い出しかねないほど
それはそれは大事にしている少年の惨状が
彼としてはどうしても許し難いらしいのだが、

「もうもう、どうせなら褒めてくださいよぉ。」
「…え?」

詰め寄る相手が違うと、
肘近くまで袖をまくった中也の黒スーツの腕へとしがみついた愛し子が、
それこそ相手の剣幕と同じくらいの膨れようを見せ。
何とも愛らしい拗ね方へ、一瞬毒気を抜かれた兄人なのへ、

「怒られるかもと思ってこれは太宰さんにも言ってなかったことですけど、
 廊下の傘立てにあった誰かの置き傘が
 爆発をもろに受けて派手に分解して ふくらはぎに刺さりもしましたし、
 異能者の子を抱え込んだ時、
 最後の抵抗で結構大きい爆破を懐ろへ食らっちゃったけど、
 この通りそっちは跡形もないんですから。」

ほら綺麗なものでしょう?と、
そういやネクタイが途中から無くなってたシャツの胸元、
人差し指を差し入れ、ちょいと引っ張り、
ほらほらと少しくつろげる少年だったりしたものだから。

「…あつしくん?」
「…あつし。」
「人虎…。」

おおう、いつの間に戻って来てたんだ、
そちらは背後から、
風呂上がりで 外套なし・ブラウスシャツ姿の芥川も加わっての都合3人分、
お揃いの押し殺したような低い声が掛けられ。
先程 “臭うぞ”と取り巻かれていた誰か様と同様に、
非難めいた声音と態度で取り囲まれてしまい、

 「……あれ?」

人のことは言えない、こちらも相当な天然さんなのは相変わらずな
虎の少年だったのでありましたvv

 「そんなお軽く“ちゃんちゃん♪”で〆めるな

話を締めようとする無責任な場外へ“許さんぞ”と吠える人や、

 「……。」
 「あわわ。」

随分とおっかなくお顔を尖らせ、
どこの話だって?と訊きたいらしいが
やっぱり方向音痴な対処で胸倉掴み上げる人はまだ想定内だったが、

 「今度そんな隠しごとしたら、与謝野先生に診てもらうからね。」
 「ひぃい〜〜っ。」

さすがは知能派、
“今度やったら容赦しないよ”が本当に容赦しない内容で、
それはそれは適切なお叱りを降らせた辺り、
一味違うポートマフィア出身の 教育係様だったのであります。


  to be continued.(17.06.02.〜)





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 *込み入った話に入る前のインターバル、天然さんその2の巻。(笑)
  褒めてvvの中身をついうっかり間違えた、
  そちらもまた結構な方向音痴の虎くんだったようでございます。